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早朝5時、前の道路にトラックの止まる大きな「音」がした。その直後に、玄関前で「ドスン」と大きな音がした。7時半に目が覚めた。カ−テンを通して朝の光が明るい。カーテンを全開し外を覗いて見た。庭の緑が朝のすがすがしさを感じさせる。夜に雨でも降ったのか道が湿っている。石畳の歩道を「学生」、「サラリ−マン」が一人、下の城壁の方に歩いている。車が3台立て続けに通った。バスが一台上に登っていった。その直後、小学生らしき3人の男子がいちびりながら通って行った。ここは、住宅の多いベッドタウンのようだ。ジョッギングパンツと靴に履き替え、静かに階段を降りドア−を開けた。天気は曇り、寒くも暑くもない。ドア−の横にアルミ製の大きな樽ある。ビールと思っていたが、「ミルク」と書かれていた。早朝に聞こえた音の犯人は、この「ミルク」だった。朝の澄んだ空気が気持ち良い。ダブリンはどこも空気は綺麗だ。下り坂を廃墟の城壁に向かって軽く走った。学生やサラリ−マンと出会う。城の入り口でスピ−ドを緩めた。そして、呼吸を整え芝生の「公園に入った。 2階から降りてくるお客の声が聞こえてきた。彼らが食事室に入って行くと、後を追うようにアンナさんが食事室に入って行った。客の要望を聞いている。暫くして、彼女が応接室に入って来た。先ず、目で僕に挨拶をかわした。「食事の用意は出来ていますが・・・」といつもの笑顔で尋ねた。「お願いします」と彼女の後に続いた。先客のカップルが窓側のテ−ブルで食事をしていた。彼らは、すでに70歳を過ぎていると思われる。紳士的で健康そうな夫婦だ。僕と彼らの目が会って互いに会釈をした。アンナは、彼らの横のテ−ブルに案内してくれた。昨日は食べ過ぎたので、ベ−コンはいらないと伝えコ−ヒ−をお願いした。横のカップルは既に食事も終わり、コ−ヒ−を飲みながら話していた。僕の目が、彼の目と再度会ってしまった。彼は眉毛をあげ、目をクリッとさせニコッと目で挨拶をしてきた。彼に「どこからですか」と尋ねた。「アメリカのミネソタからです。結婚50周年記念で、2週間でアイルランドを旅しています」と彼、「日本に来たことがありますか」と僕、「若い時、海兵隊に所属していたので1945年に沖縄に上陸したんですよ」と彼が静かに言った。その横で彼の妻が、「ニコニコ」と微笑みながら夫の話を聞いている。二人ともすでに白髪で、主人は小太りで妻はほっそりしている。物静かな人達だ。そんな話をしていたら、アンナさんが食事を運んできた。話が途切れたところで、彼らはアンナ夫人に礼を言って席を立った。僕には「良い旅を!」と言って出ていった。 彼女は、テ−ブルをかたずけながら「今日からどこに行くか決めましたの?」と尋ねた。「あなたが勧めてくれた、ゴ−ルウエイに行くことにしました。3〜4泊する予定です」と僕、「それは良かったわ。ゴ−ルウエイは素敵な街よ。出発までに列車の時刻を調べてあげるわ」と嬉しそうに言った。まるで、彼女自身が楽しい旅に出るように・・・。食事を終え部屋に戻る事にした。入口で、彼女が誰かと電話で話をしている姿が見えた。僕に気づいた彼女は、「駅に発車時間を確認しいるところなのよ」とメモをしながら言った。彼女は、そのメモを手渡しながら「ゴ−ルウエイは静かで綺麗な町よ」と、「我が街」のように繰り返した。メモには、12時から5時までの発車時刻と、丁寧にも、到着時刻まで書いてくれていた。ダブリンからまっすぐ西に進むと、大西洋側の都市ゴールウエイに着く。アイルランド第三の都市と首都ダブリンを結ぶ幹線鉄道でさえ、1時間に1本もない。2時過ぎの汽車を見逃すと次の列車は4時過ぎ迄ない。約3時間半のヂ−ゼル列車の旅である。「お世話になりました。10分後に応接室で待っています」と部屋に戻った。トランクの中に梅干しと醤油、カップヌ−ドルが見えた。大急ぎで取り出しゴ−ルウエイに持って行く事にした。皮ジャン屋さんがくれた大きいビニ−ルバッグにそれらを入れた。 |